井上店長が26年前、新婚旅行でインドのカルカッタへ。マザーテレサがつくった施設で二週間ボランティアをするため旅立ったお話の記事がお店で見つかりました。深く心に響いた店長ときょうこさんの旅のお話…ぜひ皆さんにも伝えたいと思い、シェアしたいと思います。
『インド心の旅』
井上 直記
※1999.3「 献民会だより」より
大学でインド哲学を専攻した私は、インドに強い憧れを持つようになった。
多くの友人が卒業旅行でインドに旅立ったが、
自動車部だった私は、アルバイトで稼いだ金も全て車につぎこんで、友人を羨ましくも思いながらインド旅行は夢のままだった。
社会人となった私は、生きる意味を考えながら
何か社会に役立ち、生きている価値のある人間になりたいという思いが強くなった。
そんな時、元同僚の山下さんに出会い、献民会の話を聞いて献血推進運動に参加することになった。
「とにかく良いと思った事は積極的にやろう」と献血推進運動を始め、他のボランティア活動にも参加するようになった。
その頃、友人から「インド心の旅」というツアーを紹介された。カルカッタのマザーテレサの施設でボランティア活動をしたり、釈迦の聖地を巡りながら、人は何故生まれ、生きていくのかと人生を深く問い直す自己発見のツアーだ。
しかし、サラリーマンの私には10日間の休暇は
取れなかったが、昨年、環境ボランティアで
知り合った妻との新婚旅行を「インド心の旅」に決め、私の念願のインド旅行が実現することとなった。
お互いに良き伴侶に恵まれたご恩返しの気持ちを胸に、我々はインドに旅立った。
カルカッタ到着後タクシーでマザーハウスへ向かうが、くたびれた建物、散乱する生ゴミ、漂う異臭、そして裸足で人力車を引く老人と、日本とはまったく異相の風景であった。
マザーハウスに入るとすぐにマザーテレサの墓がある。白い大きな直方形でマザーの名が記された石板がはめこまれている。
妻と手を合わせ「微力ながら手伝わせていただきます」と誓った。
翌日はインド北方のベナレスに出掛けた。
狭い路地にところ狭しと並ぶ店、巡礼、こじき、聖者、子供、野良牛、燃え上がる尻体、排泄物の臭いなどが溢れ、そして全てを聖なるガンガーが呑み込んでいく。そのガンガーで沐浴し朝日を拝み、神聖な気分を味わった。
その翌日には釈迦が初めて法を説いたという
サルナートも訪ねた。
カルカッタに戻りマザーハウスでのボランティア活動に参加する。ここは世界中からボランティアが集まって来るが、その最初はマザーテレサがたった一人で始めたものだ。
朝5時30分、マザーハウスでのミサから一日は 始まる。カルカッタには40万人もの路上生活者がいると言われるが、その人達も路肩の井戸で身体を洗ったり、洗濯したりしている。
彼等の表情は明るくて、裕福な生活をしていながら時間に追われている日本人の生活が、参めにも思われた。
白いサリー姿のシスター達と祈りを捧げ、
パンとチャイ(ミルクティー)の朝食を取る。
朝食後、我々はダヤダン(親切な贈り物という意味)という、身体にハンディキャップを持つ子供達が収容されている施設で、子供達の遊び相手をしたり、食事のお世話をしたりした。
言葉は全然通じないので、常に子供の立場で次の行動を予測しなければ上手くいかない。
急におもらしをしたり、泣き出したりで困ることが多いが、中でも食事の世話は本当に大変だ。
食べるのを嫌がり、大泣きして差し出すスプーンから顔を背ける子供には、「おいしいから食べて」と、心の中で祈りながら根気良く与え続け、1時間余り掛けてようやく食事は終わる。
食べ終わり満足そうな子供達の顔を見ると、
本当に嬉しくなってしまう。その幸せそうな姿に、私も幸せを分けてもらったような気がする。
大変な仕事なのに、こんなに楽しく幸せになれるのは、他人に愛を与えることによって、何倍もの目に見えないお返しを受け取っているからなのだろう。
後編へ続く…